原子力発電は安価≠フ欺瞞
2011年4月26日
宇佐美 保
先の拙文≪電力30%を担う原発を廃止すると電力不足になるとの欺瞞≫の続きとして、前文と同様にジャーナリスト岩上安身氏のインタビュー動画(大島堅一立命館大教授 2011年4月11日)中で、大島氏が解説を引用させて頂きつつ、「原子力発電は安価≠フ欺瞞」を記述させて頂きます。
岩上氏は、次のように語り大島氏へのインタビューをなさりました。
廃棄物の処理、保存には1000年の管理が必要だと言われてますが、莫大なコストと技術の支えとなる経済体制、継続が必要になる。そうしたことが本当に責任を持って我々可能なのか。こうしたことをあわせてわかりやすく大島先生にお話を伺いたいと思います。
我々がそもそも原発について考える大前提というのは、安全か危険かというものがあり、他方では「原発というものは非常に優れたエネルギーであり生産性が高く効率もいい」という経済性の優位性を散々吹き込まれてきたわけです。
……
そして、大島氏は次のように解説されます。
……
今まで、原子力というのは最も経済的なんだとずっと言われてきたんですね。それは例えば1999年だと原子力1キロワットあたり5.9円で、一般水力は13.6円なので(原子力が)一番安いのであると。2004年には同じような計算方法で原子力が5.3円で一般水力が11.9円で、火力に比べても一番安いと。
これはこれでモデルを使って、ある一定の想定をして設備利用率を一定程度見積もってやっています。計算してやれば出てくるものなので、それ自体はいいのですが、実際のコストはどうか。エネルギー政策として見た場合に、原子力は過去40年間ぐらい商用運転していますが、その間で実際にかかったコストはいくらぐらいなのか。
……
大島氏は、去年の9月に原子力委員会で実際に原子力政策大綱を見直す必要があるかないかということでヒアリングを受け、実際にかかったお金に関して、独自に計算し説明されたそうです。
その際の説明資料は、(2010年9月7日原子力委員会第48回「原子力政策大綱見直しについて。費用論からの問題提起」(PDF))であり、ダウンロード可能です。
そして、その資料に基づいて、岩上氏のインタビューに応じて居られますので、以下に大島氏の御説明を、私なりに纏めさせて頂きました。
先ず「表:1」に、発電費用の内訳を掲げます。
(この内訳の内、Cを除外して、今回は、@〜Bについて報告します。
「表:1」 発電の費用 |
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@ 発電に直接要する費用(燃料費、減価償却費、保守費用など) |
料金原価に導入 |
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A バックエンド費用 |
使用済み燃料再処理費用 |
原子力に固有の費用 |
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放射性廃棄物処分費用 |
低レベル放射性廃棄物処分費用 |
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高レベル放射性廃棄物処分費用 |
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TRU廃棄物処分費用 |
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廃炉費用 |
解体費用 |
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解体廃棄物処分費用 |
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B 国家からの資金投入(財政支出:開発費用、立地費用) |
一般会計、エネルギー特会から |
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C 事故に伴う被害と被害補償 |
原子力発電は莫大。料金原価には 不十分にしか反映されていない。 |
メンテナンスコスト(@発電に直接要する費用(燃料費、減価償却費、保守費用など))とかは火力でも水力でも同じく、直接かかる費用です。(大島氏の表では、この欄が、A迄、伸びていましたので、@だけになるように、私が、若干変更しました)
一方、Aは、原子力に固有な、バックエンド費用といって様々な放射性廃棄物の処分費用です。
(注:原子力の業界ではフロントエンドというのはウラン燃料を使って捨てるまでの話で、もう使用済みになった以降のものをAのバックエンドと言います。その費用が原子力固有の費用です)
Bは、通常、料金原価には算入されていませんが、国家からの資金投入があり、国家の財政から様々な費用がエネルギー政策の中に使われています。
D
は、事故に伴う費用と被害補償費。これは今後莫大になるだろうと思われます。
尚、大島氏の計算の根拠となるデータは、全て公開データであり、電力会社自身が料金原価に含めているもの(各電力会社が発表している有価証券報告書総覧に全て記載されている)を入れておられる。
料金原価の算入方法は、経済産業省が定める供給約款料金算定要領に基づいており、これは室田武氏(同志社大学の経済学の先生)が取った方法を基礎にしており、それをもう少し延長した方法を@、Aに関する計算方法とされた。
そこで、先ずは、@&Aによるコストから「表:2 電源ごとの発電費用の単価」をまとめられました。
「表:2」 電源毎の発電費用(単価:円/kWh)の実績(@、Aのコスト) |
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原子力 |
火力 |
水力 |
一般水力 |
揚水 |
原子力+揚水 |
1970年代 |
8.85 |
7.11 |
3.56 |
2.72 |
40.83 |
11.55 |
1980年代 |
10.98 |
13.67 |
7.80 |
4.42 |
81.57 |
12.90 |
1990年代 |
8.61 |
9.39 |
9.32 |
4.77 |
50.02 |
10.07 |
2000年代 |
7.29 |
8.90 |
7.31 |
3.47 |
41.81 |
8.44 |
1970‐ 2007 |
8.64 |
9.80 |
7.08 |
3.88 |
51.87 |
10.13 |
揚注:電力各社の『有価証券報告書総覧』を基礎に算定。
この結果は、有価証券報告書総覧に書かれてるものの単価の実績です。
原子力に関して言うと1970年代は8.85円、80年代は10.98円、2000年代になるとだいぶ安くなりますが、これは設備を減価償却をしてきた結果です。
全部を平均すると8.64円となります。
同様に火力水力をこのように区分すると、火力は9.8円、水力は7.08円という値になります。
ここで注意して頂きたいのは、水力の単価が、70年代は3.56円だったのが、9.32円だとか7.08円とずっと高くなっている点です。
そこには、一寸した細工(?)が隠されているのです。
即ち、ここでの「水力発電」には、普通の我々がイメージする、河川で、ダムで、それで発電用のタービン(水車)を回転させる「一般水力発電」に、耳慣れない「揚水発電」を包含させて「水力発電」の費用としているのです。
では、この「揚水(発電)」とは、何かと言いますと、原発は稼働時は最大出力で働いています。なぜなら、出力調整をすると不安定になるためで、日本では出力調整は基本的にしないことになっています。
そうなると当然、電力消費量が落ちる夜中には原子力発電分の電力が余ります。
そこで、 揚水発電が登場します。
(必ずしも原発の場合とは限りませんが……)
即ち、その余った電気で下方のダムに溜めている水を(ポンプを駆動して)上方のダムに上げるのです。
そして、電気が入用となると、上方ダムから下方ダムへ水を落とし通常の水力発電のように発電する方式です。
(当然、この発電方式は割高になります)
そこで、一般水力と揚水発電を仮に分離して計算し直すと、1970〜2007年の平均で「揚水発電」は、予想通り51.87円と割高です。
一方、「一般水力発電」は、何と3.88円と安価になるのです。
この計算に至る背景として、大島氏は、「原子力発電と揚水発電、並びに一般水力発電」のグラフを提示されておられますが、少し分かりにくいので、私は、経済産業省エネルギー庁のホームページを訪ね「エネルギー白書2010 」からコピーしたグラフを次の「グラフ:1&2」を掲げます。
グラフ:1 発電設備容量の推移 |
この「グラフ:1 発電設備容量の推移」から、原子力発電設備(グラフの緑色)に比例して(ほぼ同じように)揚水発電設備(グラフの濃い青色)が増大しているのが分かります。
ところが、次に掲げる「グラフ:2 発電電力量の推移」では、原子力発電量は増大しているのに、揚水発電量はほとんど増えず横ばい状態です。
グラフ:2 発電電力量の推移 |
これは、揚水発電が、先の計算結果通り、割高ですから!
ですから、原子力発電をフル稼働して、他の発電をセーブすれば、割高な揚水発電は行わなくて済むというわけです。
従って、この揚水発電量は増大する事が無かったのです。
そして、揚水発電設備費は、その発電コストに覆いかぶさって来ますから、当然揚水発電の単価が極端に多くなります。
この高くなった揚水発電単価を、従来は一般水力に押し付け、「水力発電」とますから、この単価は本来の「水力発電」単価より高くなってしまいます。
そこで、大島氏は、この「揚水発電」を「水力発電」から分離して、「一般水力発電」と「揚水発電」それぞれの単価を算出されたのです。
更に、この「揚水発電」は、「原子力発電」とペアである代物ですから、この単価を原子力発電単価に負担させると、10.13円となり、火力発電の9.80円より高くなるのです。
岩上氏談: 火力は高いと思われていたけれども、実は原子力発電は火力よりも高い。そして、一般水力がやはりかなり安いんですね。
ここで、大島氏の話から少しそれますが、先の「グラフ:1」を見て分かりますように、原子力発電を止めても、それとほぼ同量の設備能力を有する揚水発電で補えます。
更に、「グラフ:2」を見て分かりますように、火力、水力を十分に稼働して、その夜中の余剰電力で、現在ほとんど使用されていない揚水発電を活用し発電すれば、原子力発電を停めても電力不足には陥らないのです。
以上は、先の「表:1」の@とAに関しての大島氏の計算結果で、原子力は安い神話は消滅してしまうのですが、更に大島氏は、Bを含めて考察されます。
(Bの国家からの資金投入に関しては研究がなかったので、エネルギー関連の特別会計全てと、一般会計からのエネルギー対策費全てを項目から見て再集計し、電源ごとに積み上げ、それを発電量で割るという計算を行い、国家からの資金投入を試算された)
エネルギー対策費を大きく分けると二つあります。一般会計と特別会計です。
一般会計はエネルギー対策費ということで財政資料の中にあります。
特別会計は、かつては電源開発促進対策特別会計でしたが、今はエネルギー対策特別会計となっています。
実際、ここは先程申し上げましたように財政資料なので、電源別に計上されているわけでは必ずしもない。エネルギー対策費なので、例えば石油の備蓄とか石炭なんかの利用に関するものとか電源とは関係ないものもたくさん入っていますから、電源と直接関係あるものをピックアップし、それを積み上げて計算するわけです。
あと、日本に特殊なシステムですが、特別会計の中も大きく二つに分けられて、立地対策、要は地元に対して交付金を与える。原子力であれ水力であれ火力であれ、立地をしている自治体に交付金を与えるというシステムがあるんですけども、そこも電源別に分けてあります。
もう一つは技術開発対策があります。ですからエネルギー対策といっても、立地対策と技術開発対策がある。それを全部電源別に見てやろうというのが私(大島氏)の研究です。
先ず、次のグラフは、一般会計のエネルギー対策費の推移を見ていますが、ご覧のようにほとんどが原子力。一般会計のエネルギー対策費というのは、事実上の原子力対策費です。
岩上氏談: これは交付金とはまた別なんですね?
大島氏談: 別です。あと、電源開発促進対策特別会計。これも用途別にみると原子力がいま2000億円弱ですか。で、立地が1500億円ぐらいあります。先程申し上げましたように立地の7割は原子力ですから、電源開発促進対策特別会計もほぼ原子力に使われています。
以上の「表:1」のBも先の@、Aに併せたのが「電源別費用(単価)の実績」で、
電源別費用(単価:円/kWh)の実績 (「表:1」の@ABの合計) |
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原子力 |
火力 |
水力 |
一般水力 |
揚水 |
原子力+揚水 |
1970年代 |
13.57 |
7.14 |
3.58 |
2.74 |
41.20 |
16.40 |
1980年代 |
13.61 |
13.76 |
7.99 |
4.53 |
83.44 |
15.60 |
1990年代 |
10.48 |
9.51 |
9.61 |
4.93 |
51.47 |
12.01 |
2000年代 |
8.93 |
9.02 |
7.52 |
3.59 |
42.79 |
10.11 |
1970‐ 2007 |
10.68 |
9.90 |
7.26 |
3.98 |
53.14 |
12.23 |
1970~2007年の平均単価は、 原子力:10.68円、火力:9.90円、(水力:7.26円、)一般水力:3.98円、『原子力+揚水」:12.23円。
ですから、データで言う限り、原子力単体であっても原子力は安価な電源とは言い難い。さらに原子力プラス揚水と見るならば最も高い。
電力料金を通じて支払われている電源開発促進税を主財源とする財政費用は原子力が最も高い。
つまり原子力は財政的に優遇され続けてきたんだということです。
これでは、原子力発電のメリットはあるのでしょうか?
原料確保のメリットを政府や電力会社の説明して来ましたが、データでみると・・・100年ぐらいあったんですかね、今のウランの使用量で使っていった場合どれくらいもつのかと言いますと、ウランは確認埋蔵量が881万トンで(世界のエネルギー量のだいたい6%ぐらいを、原子力が供給してるとして)年間生産量が4万トンだと。132.4年分持つんだと。
しかし、ただ、これは実は、可採年数とか確認埋蔵量の出し方というのは色々議論があって、インドや中国が使うようになったとすると、あっと言う間に石油や石炭のように4分の1とか5分の1になってしまう。
ある意味他の化石燃料と同じなんです。
ではなんで、原子力発電か!?となってしまいますが、それは「高速増殖炉」の実用化を夢見ているからでしょう。
この高速増殖炉では、ウラン238をプルトニウムに転換させるため、ウラン資源を事実上数十倍にできるので、資源の無い日本には最適と考えた点は非難できません。
しかし、この発電機である「もんじゅ」の相次ぐ事故を考えると、これを動かすとなると今回の福島原発事故以上の覚悟が必要となるでしょう。
その上、高速増殖炉の燃料を再処理して使って行く「再処理事業」に関しても大島氏は数々の問題点を提起されております。
この件は、次の≪核燃料再処理事業の問題≫に移らせて頂きます。
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